先日、小中高校の理想的な教育の在り方を記した。ここでは、この記事の考え方をベースに、大学の理想的な教育の在り方を考えたい。
入試について
基本的には現状のままでよいと思われる。しかし、書類選考・小論文や面接といった客観的な評価ができない(採点者の主観で決まってしまう)もの、評価基準が不明瞭になりやすいもの、受験者側で変えることができない情報(年齢・性別・国籍・人種・出身校・障害の有無や種類・性的指向)を公表せざるを得ないものについては改善が必要である。
これは、昨今見られた医学部入試での性別・年齢差別問題を鑑みたものである。これら受験者がどうにかすることのできないことに付け込まれ、基準のはっきりしない独善的な判断によって不合格にされている。
選考基準を明確化し、公平にするため、以下のような対策が必要である。
- 調査書や願書・受験票には年齢・性別・国籍・人種・出身校・障害の有無と種類・性的指向は記入させない。もし記入されている場合は、選考に関与しない第三者と本人立会いの下、当該部分を切り取り廃棄する。
- 同様に小論文や面接ではこのような情報を聞かない。また、衝立で顔が見えないようにして筆記はPCで行い、発話はボイスチェンジャーでこのような情報が推測できないようにする。
- 賄賂等による裏口入学は一切認めない。
学科とのミスマッチを防ぐために…
1年次は学科を決めない
基本的に1年次から学科が決まる。一部の大学では1,2年で広く浅く学んで決めていく形式がとられているところもある。
しかし、後者のような形式がとられていても、ある程度行ける学科には制限があるのが実情である。どの類からでも全学科に行ける東大ですら類ごとに学科定員に制限があり、1年次もそれを見越した教育課程となっている。このため、いつまでたっても行きたい学科に行けず留年を繰り返すか、不本意な進学をしてミスマッチを起こすこともある。
そこで、どの学科にでも進学できるよう、1年次の教育課程による学科進学の制限や定員を撤廃する。また、学科ごとの定員をなくし(教員数が不足する場合はその都度雇用する)、希望する学生全員が進学できるようにする。同様に、1年次の教育課程がこの先に影響しないようにする。
なお、定員のため落とす目的ではないこと、以上で挙げた本人がどうしようもない情報を理由に落とさないことおよびそれが担保されるために先述のような配慮をしたことを条件に、純粋に本人の適性を見る目的なら学科配属にあたり適性検査があってもよいとは思われる。
ミスマッチが起きたときは
以上のように、自由に進学できるようにすることでミスマッチを未然に防ごうとするものであるが、学科決定・配属後にミスマッチに気づいた場合も考える必要がある。
そこで、もしミスマッチを感じた場合、1年次に戻り再度決定することができるようにすればよい。
講義履修と単位取得について
「分野別単位」「全国共通単位」制度
科目の名前はいろいろあれど、再入学・転編入した時などのとき、必要単位の減免に関わる審査をしやすくするため、科目と分野を紐づけるのがよい。学科に相当する分類を作り、その下に学科で必修とされるような分野名を付けた分類を作る(例えば法学→刑法など)。
同様に、この制度を整備することで全国どこでも有効で、かつ簡単に所要単位がわかるようにする。
どこでも/いつでも履修できるようにする
さすがに学期途中で変更するのは難しいが、学期(クォーター)ごとに受講する大学を変えることもできれば、もし何らかのトラブル(例えば、上京した学生が実家の親の急病で帰省しなければいけなくなったなど)により受講が難しくなった場合でも、他の大学で受講することにより単位認定されれば学業を続けることができる。同様に、同一科目を毎学期開講することで、いつでも受講することができる。
同様に、研究・実験(実習)以外は小中高校の記事で取り挙げたように、ICT機器を利用したオンライン受講ができるようにする。結果、場所や時間を問わず受講できる。
オンライン受講ができない科目の場合は、上記のように毎学期開講されればいつでも都合の良い大学で受講することができる。
もちろん、教員が過度に多忙にならないようににする必要がある。具体的には「研究員」「講師」「指導員」に分け、現行の教授などは研究員とし(講義や実習に臨時的に招かれ講演してもよいかもしれないが、あくまで年1-2回を超えないように)、講師は講義に専念する。また指導員は実習の指導を行う。
科目の分類
基礎科目/教養科目
2年次以降学科を決めるにあたり、その基礎を学ぶためのものである。ここでいくつかの分野の基礎を習得することを学科配属(出願)の条件とする。当然全分野の科目が用意されており、学生はその中から自由に選んで受講できる。
学科配属後は、この系統の科目は教養科目として扱えばよい。
なお、基礎科目は以下を必修にすべきと考える。
- 数学の基礎と演習(特に微積/線形代数)
- 英語(4技能すべて)
- 情報/技術リテラシーに関する科目
- 創造性/リーダーシップ/発想力/多様性/国際教養を磨くプログラム(海外の講師を招いて)
- (理系のみ)化学/物理学(力学/電磁気)
専門科目
これも現状のままでよいと考えるが、以下を満たせばよいと考える。
- 講義科目は、履修順序に制限を設けない。
- 実験科目は講義での知識が必要なので例外的に履修要件を設けてもよい。
- 学生がいつでも受講できるように、講義はオンデマンド受講ができるようにし、また実験を含めた全科目で全学期開講する。
研究科目
研究室に配属されて研究を行う都合上、これについては本人の適性があるためある程度の選考が必要である。ただし、入試と同様に本人がどうしようもない情報で不利益を被ることがないよう、上記同様の配慮が必要である。
また、ミスマッチを防ぐため希望者全員が希望する研究室に入れるようにし、配属後ミスマッチが生じた場合いつでも研究を中止し別の研究室に移れるようにすべきである。
そのほかいろいろあるが、後日記す大学院の項目で書いていこうと思う。
実習科目
これも内容としては現状のままでよいが、いつでも始められるようにすべきである。また、各種特性に応じた最大限の配慮がなされるべきである。
基本的に履修要件を求めない
履修要件を設けていては、受けたい科目を受けられずにモチベーションが低下したり、下位科目が修得できていないことにより進級・卒業が遅れ経済的負担になる。
そこで、講義科目については、履修要件を設けず学科配属後はいつでも好きな時に履修できるようにすればよい。
なお、実験・研究・実習科目は知識なしでは危険なため要件を設けてもよいが、いつでも履修開始できるようにすることが重要である。
さらに、履修単位の上限も設けない。こうすれば取りたい科目を好きな時に取ることができ、希望する人は早期卒業ができる。*1
単位認定に関わる試験など
内容は現状のままでよいが、いつでも好きな時間(ただし、成績評価の都合上、学期ごとに締め切りを設け、間に合わない場合は次の学期での単位認定にする)にICT機器を用いて受験できるようにすればよい。こうすれば学生に突発的な用ができた場合でも煩雑な手続きなく合理的である。同様に、教員の負担も防げる。
不正が懸念される場合は、論述問題や学生ごとに異なる問題を課す、あるいはコピペ判定ソフトなどを用いればよい。
入学時期について
以上のようにどの科目も全学期で履修でき、講義科目においては履修要件がないのだから、入学時期も4月に限る必要もない。学生が希望したタイミングで入学できればよい。
入学式/卒業式ができなくなるが、問題はないだろう。
進級/卒業認定について
以上に従えば、このような方針が望ましいといえる。
- 1→2年:全学科必修科目および希望する学科が配属要件としている科目をすべて修得しており、学科配属が決定し、本人が配属を希望していること。
- それ以降:各学科の方針による。
- 研究室配属・実習派遣学年:各学科が必修とした(研究・実習科目以外の)単位をすべて修得し、本人が配属・派遣を希望していること。
- 卒業要件:以上全てを修得でき、本人が卒業を希望していること。
卒業は○○大学卒業でなく、「学士(○○学)」とだけつく。こうすることで、学びたいことより大学のネームバリューのみを求めている人を弾くこともできる。また、全体の大学の講義のレベルを底上げすることができる。
この方法だとあらゆるトラブルに対応できるはず
以上、大学教育の理想的な在り方を考えた。この方針では、好きな科目を好きな時にどこでも履修でき、好きな学科・研究室に行け、ミスマッチを最小限にできる。
また、実家で親が倒れたといったトラブルにも対応でき、なにしろ自分が一番やりやすいペースで学修することができる。
ちなみに、今回のコロナウィルス感染症により、多くの大学で登校ができずオンライン授業となったが、このようなことができるのであればここで挙げたことも可能と考えられる。
*1:現状では1年あたり上限49単位とされている場合が多いが、この制限を撤廃すれば、1日5コマ・週5日で受講すれば半期で50単位となり、最速2年で124単位が取れて卒業できる。